点と点を繋げること

この記事は、はてなディレクターアドベントカレンダー2016 の22日目のエントリーです。前回は id:kyabana さんの「デザイナーからディレクターになって - kyabana's blog」でした。



こんにちは、はじめまして。株式会社はてなでプランナーを務める、id:byororiと申します。はてなには今年入社しました。現在はアプリ開発チームと家電会議チーム両方で、機能・キャンペーンのプランニングや告知執筆などを担当しています。

このエントリーでは、自分が今まで経験してきた映像制作やライターの経験が、現職にどう影響しているか・役立っているかについてを、私的な視点で趣くままに書き出してみようと思います。

※ プランナーとしての経験はまだ1年にも満たないので、このエントリーでは「プランナーとはこうであるべき」のような内容は書きません

これまで

私は大学を卒業してから特に就職活動などはせず、「自分が好きなことだけをやって食っていくぞ」という心持ちで、言うなればフリーターのような形態で過ごしていました(フリーターという言葉が適切かどうかは分かりません)。

その間は某ガジェットWebメディアでライターをしたり、セミプロのような形で映像制作を請け負ったり、趣味で自主制作映画・PVを撮影していたりと、とにかく自分が面白いと思ったことに手を出していました。安定感は皆無でしたが、贅沢をしなければ十分に豊かだと感じていましたし、このまま好きなことをやりながら生きていく覚悟をしていました。しかしその最中に、はてなと出会ったことが、現職への転向のきっかけになりました。

はてなにジョインしたきっかけはシンプルで、アプリやWebサービスが大好きだからです。アプリをアップデートする時は必ずリリースノートを読んでからワクワクする順でアップデートしたり、iOSAndroid両方のスマホタブレットを持っていたりします。Webサービスも片っ端から登録していて、常に何らかのサービスから通知が届いています(今までは夜中の3時とかに起こされてましたが、最近は「おやすみモード」という便利機能がありますね)。

はてなは10年以上ユーザーに愛されるサービスを運営する人たちが集まる場所で、社内の文化や思想にも共感できるし、関西の京都に拠点を置いていることも(実家に近いので)理由でした。

しかしこのようなバックグラウンドから、Webサービス・アプリのプランナーに転向するのは稀有なパターンだと思います。一見すると分野も異なり、全くノウハウが通用しなさそうなので、実際周りからも幾度となく疑問の声がありました。一般的にWebサービスアプリ開発チームのプランナーになるには、新卒でプランナー職に応募したり、エンジニアやデザイナーからプランナーに転向したりというパターンが多いと思います。しかし、“自分が今までやっていたことは、はてなでプランナーをすることとそれほどかけ離れていない”ことに気づきました。

映像制作≒アプリ開発

映像は観るのも撮るのも大好きで、大学でも“映像”を学びました。学生時代は友達と自主制作映画を撮ったり、若手音楽バンドのPVを撮影したり、どのカメラとレンズの組み合わせが最高かを一晩中話し合ったりしていました。

例えばアプリ開発と映像制作は、想像以上にそのプロセスが似ていると感じました。基本的に“第三者に使ってもらう・見てもらう何か”を作るというのは、前後があるものの、ほぼ以下のようなプロセスを踏むはずだと考えています。

映像制作 アプリ開発
1 発想・ディスカッション ユーザーフィードバック・問題意識・iOSの新機能
2 プロットを考える 機能の仕様を考える・利用調査
3 脚本に落とし込む ユーザーストーリーに落とし込む
4 絵コンテを描く・ロケハンする デザインする
5 キャストを決める 役割分担
6 撮影 コーディング
7 ポストプロダクション(編集・カラコレ・エフェクト) フィードバックからの修正など
8 試写 ベータ版を配布・レビュー
9 完パケ ストアへアップロード
10 公開 リリース

また、制作を通して常に意識することとして、「観客・ユーザーが誰なのかを意識すること」「それが存在する・作りあげられる理由が考えられているか」「制作中にこれは絶対無理だろうということをできるだけ排除する」などがあります。理解不能でハードコアな実験映像や便器に名前を書いただけの作品も、何らかのコンテクストや思想の上に成り立つはずで、結局のところ似たプロセスを通って出来上がるはずです。

なので、アプリ開発だから「あの本とこの本を読破して、この用語をマスターする必要がある」のような手順を踏む必要はないと思っています。まずは関わるメンバーのバックグラウンドや得意なことを見極めて、良い作品を多くの人に提供しようという気持ちを心がけています。もちろん、会社が立ち行かなくならないように利益のことを考えたり、より円滑に進めるためにソフトウェア開発独自の習わしに慣れ親しむ必要はありますが、基本的なスタンスは映像を作る時と同じです。

文章が無機質になりすぎないように

次に、Webライターの経験です。某ガジェットメディアで、オリジナルの記事や英語記事の翻訳をしていました。毎日一番新しいテクノロジーに出会えて、それをいち早く多くの人に届けられる最高の仕事でした。

その経験は、映像制作より直接的にプランナーのスキルとして役立っています。普段あまり気に留められないようなリリースノートやヘルプ、告知を書く時にも、パッと見た時の読みやすさを重視して構成したり、無機質になりすぎないように表現を工夫したり、冗長になりすぎないように文章を削ったりと、少しだけこだわっています。

周りにはブログサービスを開発していることもあり、書くことに敏感なスタッフも多いです。エンジニアから「ちょっと冗長になりすぎじゃない?」とか「その日本語おかしくない?」など、かなり厳しい指摘をいただけることも。Webメディアのライターとしてはまた違った視点で、ライティングの技術を伸ばせています。

点と点を繋げる

スティーブ・ジョブズがどこかで言った「点と点を繋げる」のように、過去自分が関わったことを改めて俯瞰してみると、なんらかの規則性が見えてくることに気づきました。初めから明確な夢があり、それを実現するための道が見えているなら考える必要がないことかもしれませんが、自分はそういうタイプではなかったので、現時点から過去の点を繋げることが自然に思えました。

また私は自分が愛せないモノからは、できるだけ距離を置きたいと思っています。撮る対象・書く対象を好きになることができなければ、途中で嫌になることが目に見えています。なので、好きになれるものでしかお金を稼がないぞという意思は最初から変わっていません。また対象だけでなく、そのプロセスや手段も自分が納得できるもののほうが心地良いはずです。

そのように、自分が好きな物事を、納得できるプロセスで、信頼の置ける仲間と一緒に考えることができれば、点と点は否応無しに繋がっていくものだなと思いました。はてなは、そんな自分の中の点と点を上手く繋げられた場所なのかもしれません。

これから

点と点を繋げた結果が現在に繋がったという話を書きましたが、過去を振り返って繋げるだけなら“これから”が全然見えていないんじゃないかと考える方もいらっしゃるかと思います。私は繋げた点と点から伸びる線を見据えると、自ずと自分に合った“これから”が浮かび上がると思っています。

それは私の場合、あまり具体的ではないですが、今までの経験で得たものを総動員し、まだ見つけられていないものに価値を見出し、それをどういう形であれもっとも良い体験としてユーザーに届けることです。それを自分もチームのメンバーもユーザーも納得できる形で、精度良く考え・作り続けられるようになりたいと考えています。

それを実現するための道としてプランナーの次はディレクターになることが良しとされていますが(実際にそれが希望ではありますが)、あまり肩書きに捉われすぎず、自分の信念を中心に据えて考えながらこの先に進んでいければなと思っています。


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明日の担当は、プロデューサーの id:kiyo-shit さんです。


追記

これを書いた後に、「計画的偶発性(プランドハップンスタンス)理論」という考え方に似てそうだねと教えていただきました。こんなキャリアの決め方もあるのかと参考になれば幸いです。

スタンフォード大学のジョン・D・クランボルツ教授によって提唱されたもので、「個人のキャリアの8割は予想しない偶発的なことによって決定される」とし、その偶然を計画的に設計して自分のキャリアを良いものにしていこう、というポジティブな考え方です。

クランボルツ教授に学ぶ計画的偶発性理論とは? [キャリアプラン] All About